はじめに

本講座は、これからLANを利用、構築するにあたってLANの知識を身 につけたいという人の為の入門書として作成しました。


1998年 11月






1章  概要




1.1 LANとは
(1)LANの定義 


ネットワークを地域的な広がりという観点からみると、次の3種類に分類できます。

同一構内エリアのネットワーク
 オフィス、工場、大学キャンパスなど、ある地域に限られた範囲内のコンピュータ同士間で、データや画像を相互に通信するネットワークを指します。
ただし、企業内通信網をさしてLANという場合もありこの場合は、LAN間接続を含んだ広域ネットワークの意味を含みます。
  • MAN(Metropolitan Area Network)
    一つの街(都市)の中のネットワーク
     一つの街、一つの都市、一つの市街領域をカバーするネットワークを指します。
  • WAN(Wide Area Network)
    広域ネットワーク(距離は無制限)
     全国的な(あるいは国際的な)地域をカバーするネットワークを示します。

    (2)今なぜLANなのか 


    90年代後半に向けて、マルチメディア・ネットワークの関心が高まるとともに、企業の情報通信システムのダウンサイジングの気運も高まってきています。
     これは、コンピュータの小型化、マルチメディア化とともに、これらを接続するネットワークとして、LANが普及してきたことと深い関係にあります。
    そこで、今LAN市場が急激に伸びてきている背景について日本経済の環境変化と情報通信分野の変化の2点から、整理を図ることとします。

     日本経済が低成長時代を迎え、経営の体質改善が必要となってきました。
    この経営体質改善を実現する手段として、情報技術を核にした業務の抜本的改革の実践が求められています。

  • 情報通信分野の変化

    情報技術を核にした業務の抜本的改革を進めるために、コンピュータの分野、ネットワークの分野、そして情報システムの分野の三分野が相互に影響を与えながら進展しています。

    パソコンや、ワークステーションの処理能力が向上し、小型化、低価格化とも相まって、一人一端末も現実となるほど普及してきました。

  • ネットワーク分野
    従来、電気通信事業者によって独占的に支配され、与えられていた「ネットワーク」は、LANの登場によって、ユーザが自分に合ったネットワークを選択、管理できる時代となった。
    いわゆるネットワークの小型化、大衆化という意味も含めてダウンサイジングが急速に進展してきています。
  • 情報システム分野
    パソコンやワークステーションなどの小型コンピュータをLANで「ネットワーク化」し、分散処理システムを構築することによって、従来のホストコンピュータ・システムに比較して、機能的にも経済的にも十分対抗できる環境が整ってきました。

    日本は、世界に例を見ない程、異機種コンピュータが導入されています。このようなマルチベンダ環境をLANで接続する技術として、OSIプロトコルの実用化や、TCP/IPが普及してきました。

    (3)LANの構成要素


    LANを構成するハードウェア、ソフトウェアを整理しますと、次のようになります。

    1. コンピュータ分野

    ・パソコン、ワークステーション、ホストコンピュータ.......etc

  • プロトコルとソフトウェア分野
    ・プロトコル:OSI,TCP/IP,IPX/SPX,AppleTalk.......etc
    ・ネットワークOS:LANtastic,AppleShare,NetWare,Windows NT Server.......etc
    ・OS:MS-DOS,Windows,Mac,OS/2 Warp,Windows NT,UNIX.......etc
  • LAN分野
    ・LAN標準:IEEE802.3(10BASE 5/2,10BASE-T),IEEE802.5(トークン」リング)....etc
    ・インターネットワーク機器:リピータ、ブリッジ、ルータ、スイッチングHUB.......etc
    ・伝送媒体:同軸ケーブル、ツイスト・ペアケーブル、光ファイバケーブル、無線.........etc
  • WAN分野
    ・パケット交換網、高速ディジタル回線、ISDN、フレームリレー、B−ISDN......etc
  • マルチメディア分野
    ・音声、データ、静止画(JPEG),動画(MPEG)......etc
  • アプリケーション分野
    ・ファイル転送、トランザクション処理、電子メール、表計算、グループウェア、テレビ会議、ビデオ/オン・デマンド......etc






    1.2 LANの歴史
    (1) バッチ処理システムとTSSの時代



     1950年代コンピュータといえば、計算を高速に行うための電子計算機として考えられてました。 コンピュータの入力はせん孔カード、出力はテレタイプという形式が主流で、コンピュータも与えら れた仕事を一つずつ順番に処理していくバッチ(一括して処理すること)形式の処理を行っていました。


     1960年代に入り、タイム・シェアリング・システム(TSS:Time Sharing System:時分割システム) と呼ばれる新しい技術が広まり、コンピュータの利用形態には大きな変化がもたらされました。 TSSでは、バッチ処理とは異なり、同時にいくつもの仕事を受け付け、短い時間間隔ですべての 仕事を次々に処理していくので、前の仕事が完了していなくても、コンピュータに次々に仕事を依頼することが 出来るようになりました。

    (2) コンピュータと通信の融合〜パケット通信網の登場


     70年代に入りTSSのコンピュータ・システムが数多く設置されるようになりますと、 今度は他のコンピュータのファイルにアクセスしたり、ログインしてプログラムを実行したいという 要求がでてきました。このような要求に応えるために、データ通信ネットワークを利用して、 コンピュータ同士を接続し、利用者が一つのコンピュータから別のコンピュータへと渡り歩いたり、 別のコンピュータからファイルをコピーしたりというように、あたかも自分が直接そこに接続されているか のようにして別のコンピュータを利用することができるような技術が開発されました。

    (3) パソコンとネットワーク・コンピューティング


     1980年代、パソコンは、技術の発展によりMacintoshやWindows環境で、GUI(Graphic User Interface) が実現され、使いやすさが増してきました。このため、コンピュータについての知識がないユーザーでも、 バソコンを使いこなして、日常業務の効率を大幅にアップすることが可能な状況になってきました。
     その結果、パソコンを使ってなされていた業務の成果が、個々のパソコンに蓄積され、大事な情報が共有されない という問題を引き起こす事となりました。パソコンの世界でこそ、ネットワーク・コンピューテイングが必要である ことが認識されるようになってきました。

    (4) ネットワーク・コンピューティングの広がり


     1990年代に入り、TCP/IPに加え、OSI(Open System Interconnection:開放型システム間相互接続) などのマルチベンダ・プロトコルの実用化、あるいはFDDI(Fiber Distributed Data Interface:光ファィバ分散データ ・インタフェース)などの高速LANの登場によって、パソコン、UNIXワークステーション、ホストコンピュータという 異なる種類のコンピュータがLANという共通のメディアを通じて通信できるようになってきました。
     これによって、ネットワーク・コンピューティグの世界は、コンピュータの壁を超えて大きく拡がる可能性が見えてきました。
     また、マルチプロトコル・ルータの登場などによるインターネットワーキング技術はLANとLANの間の壁や、 地理的な距離の壁を越えたグローバルなネットワーク・コンピューティグ環境を構築することを可能にしました。現在、 ソフトウェアの間では、通信プロトコルとサーバの技術が異機種のコンピュータを結んだネットワーク・コンピューティグ の基礎となりその上で様々なサービス、グループウェアなどのソフトウェア、クライアント・サーバ方式などの最新テクノロジー が展開されています。
     今後もLAN技術は、コンピュータ、ネットワーク、情報システム、の3分野の変化により 発展していくものと考えられます。ホストシステム時代からネットワーク・コンピューティグ時代に移行した様に、 ダウンサイジングの流れは、その時代の電子技術を吸収した内容を構成(Rightsizing:ライトサイジング) しながら形づくられていくものと思われます。